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本阿弥光悦の美学 〜黒と赤、二つの世界〜

  • 執筆者の写真: Kaname Tanino
    Kaname Tanino
  • 5月11日
  • 読了時間: 3分

1. 光悦とは?

本阿弥光悦(1558–1637)は、江戸時代初期に活躍した総合芸術家であり、茶人・書家・陶工としても知られる。彼は、伝統にとらわれない独自の美意識を持ち、「わび・さび」の世界を新たな形で体現した人物である。

光悦の作品には、武士や貴族の文化、禅の思想、商人文化が交わる中で生まれた、自由闊達な造形が見られる。特に、楽焼の茶碗は彼の美意識が色濃く表れた作品群のひとつであり、侘びの象徴である「黒」と、温かみと縁起を感じさせる「赤」という、二つの異なる世界観を持つ茶碗が存在する。


2. 黒茶碗「烏帽子」:侘びの極み

黒楽茶碗の代表的な作品の一つである「烏帽子」は、光悦の作風を象徴する逸品である。


この茶碗の造形は、光悦の名碗「富士山」に通じる角造りを特徴とし、薄手で繊細なフォルムを持つ。口縁の一部を手指で成形し、意図的な歪みを加えることで、無作為の美しさを表現している。また、胴部には竪箆(たてべら)による装飾が施され、そこに意図的な凹みが加えられている。これは、まるで自然がつくりだす造形美を写し取ったかのような趣がある。

黒釉の質感は、光悦が好んだ「ノンコウ風」とされ、漆黒に輝く柚子肌のような質感が特徴的だ。この黒の深みと艶やかさが、茶の湯の中で一層際立ち、静寂と落ち着きを演出する。


この茶碗が「烏帽子」と名付けられたのは、その黒く端正な姿が、武士や貴族がかぶる烏帽子を思わせたからであろう。かつての茶人たちは、この黒の奥深さの中に、光悦の侘びの極みを見出したに違いない。



光悦黒茶碗「銘 烏帽子」
光悦黒茶碗「銘 烏帽子」


3. 赤茶碗「福来」:華やぎと縁起

一方で、「福来」と銘打たれた赤茶碗は、光悦の作品の中でも希少性が高い。赤茶色の楽焼茶碗は黒楽茶碗に比べて数が少なく、より温かみのある表情を持つ。


「福来」という銘には、「福が来る」という縁起の良い意味が込められている。茶の湯において、茶碗は単なる器ではなく、もてなしの心を映し出す存在である。この茶碗が持つ明るく穏やかな色合いは、茶席に和やかな雰囲気をもたらし、福を招く象徴ともなる。


光悦の造形美はここでも発揮されており、わずかに歪んだ形状が、侘びの趣を生んでいる。口縁の造形や釉薬の流れが、単調にならない動きを生み出し、手に持った時の感触にまで気を配られた作品である。



光悦 赤茶碗「銘 福来」
光悦 赤茶碗「銘 福来」


4. 黒と赤、二つの光悦茶碗の魅力

光悦の茶碗は、茶道具としての機能性と、芸術作品としての価値を兼ね備えている。「烏帽子」のように静謐な美しさを持つ黒茶碗は、侘び寂びの精神を体現し、「福来」のような赤茶碗は、華やぎと温かみを感じさせる。


もし実際に茶席でこれらの茶碗を使ったならば、その場の雰囲気や亭主の意図によって、茶碗が生み出す印象は大きく異なるだろう。静かに心を落ち着かせるための黒、もしくは場を明るく華やかにする赤。光悦の美学は、茶の湯を通じてより一層深まる。


5. 美術青丹洞で出会う、光悦の世界

光悦の茶碗は、美術館や茶会でしか見ることができないと思われがちだが、美術青丹洞では、こうした名品に間近で触れることができる。このような逸品に実際に触れ、手に取ることで、光悦が込めた美の哲学を感じることができるだろう。


「黒と赤、二つの世界」の対比を実際に味わうことで、本阿弥光悦という天才の美意識を、より深く理解できるはずだ。ぜひ、彼の世界に足を踏み入れてみてほしい。

 
 
 

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