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山路にうねらせた口部を外に反らせ、胴には轆轤目を巡らせた腰高の典型的な黒織部沓形茶碗である。
内外に掛かった黒釉は黒と褐色の斑に焼き上っており柿織部と言われる事もある極めて稀な釉景を呈している。
 
高台は古格のある削り出し平高台で、高台内は浅く無造作に箆削りされている。
腰から高台の中ほどにかけ対向して鉄釉と長石釉が掛け分けされ、高台を囲む様に四角く土見せとなっており、美濃の五斗蒔土であろうか、備前土の様なざんぐり柔らか味のある土味を見せている。(美濃 八幡窯の産か)
 
胴部前後に巾広と巾狭の窓を開け、そこに旗様の抽象化された格子文を描き、狭い窓には丸内に格子文を描ている。窓以外器全体に先に述べた斑黒褐色の豊かな釉景色見られる。
見込は広くて深く、茶溜りに二つの目跡が残る。
全体的に柔和で味わい深く、面白味があり趣き深い古黒織部沓茶碗である。
 
時代桐箱の蓋裏に小堀遠州の手であろうか、和歌貼紙(櫻か里 雨は降きぬ おなしくは ぬるるとも 花のかけにかくれむ)があり、碗銘としている。
 
【参考】黒織部
黒釉(長石釉に鬼板、マンガン、紅板などを入れて作る)を掛けるとき、窓と呼ばれる間をあけて、その部分に鉄絵具で絵や文様を描き、その上に長石釉または灰釉をかけて焼く。
器種としては沓茶碗が多く、茶入、香合、水指などとあるが、何と言っても織部を代表する大胆かつ斬新なデザインには驚かされるところである。
安土桃山時代といえども封建、閉鎖された社会で、かかる個性あふれ、自我のみなぎる力強い造形、加えるに西欧の抽象絵、幾何学文様を窓いっぱいに強烈に表現する自由の精神は、沓形の変形に極限にまで迫っている。
なお、器肌の黒釉の一部を搔き落として文様を描き、長石釉を象嵌する技法や、黒釉の施釉前に、切紙などを貼って白抜きする方法などもある。

 
■和歌にまつわるエピソードについて
「桜狩雨は降りきぬおなじくは濡るとも花の影に隠れむ」という歌は、勅撰和歌集である『拾遺和歌集』にて詠人不知として伝わる歌です。
ここで、“春の雨に濡れる桜”と一人の雅な歌人の悲しいエピソードをご紹介します。
 
一条天皇の時代、殿上人たちが京都の東山へ花見に出かけた時のことです。折悪しくにわか雨が降り出し、人々が大騒ぎして屋根の下へ逃げ込む中、歌人として名高かった藤原実方(ふじわらのさねかた)だけは違いました。
実方は雨を避けようともせず、美しく咲き誇る桜の木の下に佇み、涼やかな声で次のような歌を朗誦したのです。
 
「桜狩り雨は降り来ぬ同じくは濡るとも花の影に宿らむ」
 
結句が少し違いますが、場面と歌とはぴったり。人々は感動し賞讃しました。
この風流な振る舞いは大きな評判を呼び、大納言・藤原斉信によって一条天皇の耳にも入れられました。
しかし、この雅なエピソードに冷や水を浴びせたのが、時の才人・藤原行成でした。
行成は「歌は面白いが、それを実際にやって濡れるとは愚か者(をこ)である」と言い放ちます。
これを聞いた実方は行成に深い遺恨を持ち、ある時、口論の末に行成の冠を掴んで庭に投げ捨てるという事件を起こしてしまいました。
この騒動が原因で、実方は陸奥守(むつのかみ)へと左遷され、都を離れることになります。
 
■陸奥での最期と、都への未練が生んだ「雀」の伝説
995年(長徳元年)、実方は陸奥国の多賀城へと赴任しました。しかしそのわずか3年後、非業の死を遂げます。
里人から「下馬して参拝するように」と言われていた佐具叡神社の前を、実方は馬に乗ったまま通り過ぎようとしました。すると神罰によって落馬し、そのまま亡くなってしまったと伝えられています。
 
都への強い未練を残したまま亡くなった実方には、悲しくも幻想的な後日談があります。
・入内雀の伝説: 実方の亡き魂は雀に姿を変え、はるばる都まで戻ってきたという伝承があります。京都の更雀寺には、実方を供養するための「雀塚」が今も残されています。
・川面に映る霊: 『徒然草』によれば、実方の霊は上賀茂神社の御手洗川にその姿を映したとも言われており、現在は同神社の末社である橋本神社に合祀されています。
 
美しくも激しい気性の歌人、藤原実方。彼が雨の桜の下で詠んだ歌は、その後の波乱に満ちた運命を予感させるような、どこか切ない響きを秘めています。

 

参考:
「新古今和歌集 巻第一 春歌下 114 拾遺集 春歌 50」
https://tagiri.hatenablog.com/entry/2024/03/25/181835
「藤原実方の歌~東山の花見で詠んだ歌~」
https://www.yoritomo-japan.com/etc/murasaki-sikibu/uta/sanekata-hanami.html

古黒織部格子文沓茶碗「銘 桜刈」

SKU: 0044
¥650,000価格
数量
  • 時代        桃山~江戸初期
    口径        14.0×12.0cm
    高さ        8.0cm
    高台径        6.0cm
    付属品        時代桐箱・縮緬仕覆・包布
    その他        蓋裏 和歌貼紙(桜か里 雨は降きぬ~)

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