桃山期鼠志野茶碗の代表作(峰紅葉、山端)と似た作振りの茶碗で、美濃大萱の窯下窯の作と考えられる。
裏千家十三世 円能斎書付箱に納まる鼠志野茶碗「銘 三室」(みむろ)である。
小さく引き締まった高台から腰にかけて直線的に開き、腰高の胴部には亀甲文と、その裏側に檜垣文が表わされ、口縁下に胴筋風の箆彫を廻し、胴部には縦箆目を浅く幾筋となく見せ、また腰部に山路風の箆彫が付けらている。
胴部に掛かっている釉下の鬼板化粧の掛かりに、濃い薄いがあり、鼠色の釉膚に赤黒く荒々しく焼き上がった面と、柔らかく白味をおびた面とが出来、その対比が景色となっておもしろい。
また、鬼板化粧は高台から続く底面を土見せにし、腰縁下面に掛かった志野釉を手指で搔き落とした赤黒い縞模様も景色として見せている。器体底面高台周辺は柔らかな百草土の土見せで、実に丁寧な高台造りが為されている。
小振りの低いベタ高台であるが、古格があり、この茶碗の大きな魅力の一つとなっている。また心地良い茶心を感じさせてくれている。
本鼠志野茶碗は全体的に装飾的効果を求めた作振りの茶碗であり、見込は広く大きく点てやすい茶の湯に適った古格のある趣き深い茶碗である。
【参考】鼠志野
志野焼は鉄絵で身近な風景や物を簡素に描かれた上に長石釉を厚く掛け、素地や釉薬の中の鉄分が焼成段階に緋色の景色を作り出し、あるいは、厚く掛けられた長石釉の白さや柚子肌を愛でたが、鼠志野は素地に鬼板(鉄奬)を掛け、その上から箆などで搔き落としによる文様を描いて、さらに志野釉薬を掛けて焼いたもので、搔き落とした部分が白く残り、鉄の部分が窯内の条件で鼠色や茶色、赤褐色に焼き上がる焼物で、諸々の条件により焼き上がりが千変万化する。
【参考】三室(山)
日本各地に三室、三室山があり、其々紅葉や桜の名所である。東京多摩青梅、奈良斑鳩、兵庫宍栗の他、中でも奈良斑鳩の三室山は聖徳太子の時代からの地であり神南備山とも呼ばれていた。百人一首に能因法師の歌がある。
「あらし吹く 三室の山のもみち葉は 竜田の川の錦なり」
鼠志野茶碗「銘 三室」
時代 桃山時代
口径 13.0~12.0cm
高さ 8.0cm
高台径 5.7cm
付属品 時代桐箱(裏千家十三世 円能斎書付)
その他 古更紗仕覆・印度更紗包布